三井グラフ136号に掲載 2004年7〜9月
蚊  帳



虫除けからくつろぎと安心の快眠グッズに
麻布製なら蒸し暑さも和らぐ

 かつては夏の必需品であった蚊帳だが、下水道の整備、殺虫剤の登場、
網戸やエアコンの普及などによって蚊帳をつる家が年々減り、現在では
蚊帳を知らない世代も増えた。需要がなくなったことで、2000年には蚊帳業者の組合も解散。
しかし、今もさまざまな理由で蚊帳を愛用している人たちはいる。



「中に入ると涼しい、安らぐ、家族が一つになれる。クーラーや扇風機の風もまろやかになる…。
蚊帳が虫除けだけの道具と思ったら間違いです。虫を殺さず自分の身を守るというのも日本人好みでしょ」と話すのは、静岡県磐田市で寝具店「菊屋」を営む三島治さん(48)。三島さんは8年前に開設した店のホーム
ページ「安眠コム」を通じて、蚊帳の効用をを積極的にアピールしてきた。5年前からは独自ブランドの蚊帳、
間仕切りなどのオーダーメイド蚊帳の製造販売も始め、昨年は全国から1500枚もの注文が寄せられた。

 目本経済の″蚊帳の外″に置かれた町の寝具店が、再び世の中の役に立てるようにと開設したのが
「安眠コム」。インターネットの双方向性を生かし、三島さんは最初、その人に合った枕の提供に力を
入れれいた。    


 あるとき、お客さんから 『ところで蚊帳はありますか』と聞かれたんです。目から鱗が落ちるようで
したよ。必要とされる商売はこれだって」。以来、あちこちから蚊帳を集めて紹介したところ、反響は予想
を大きく上回った。「蚊帳の復活はITの産物」が三島さんの持論だ。
 蚊帳は紀元前に中東で生まれ、日本には中国経由で伝来して奈良時代から作られ始めた。一般に普及する
のは江戸時代になってからで、麻を使用した近江蚊帳などの特産品も生まれたが、当初、庶民が使っていた
のは和紙をもみほぐした蚊帳。ちなみに昔の蚊帳は萌黄(もえぎ)地に赤いふち布。戦後は合成繊維が登場し、
青または白地に青のすそぼかしが入ったものが主流となる。
そして、21世紀になって登場した菊屋の蚊帳は麻100%。生成りのままのやさしい色と木製のつり具が今風だ。
 布地は編み目のよれない遠州伝統の「からみ織」、縫製はピアノ運搬用布団などを作っている地元企業に
協力を求めて出来上がったもので、麻なのに洗濯ができるのが特長。快適な睡眠には、実は温度よりも湿度
のほうが大きく関係する。麻は通気性とともに吸湿性に優れ、麻蚊帳の中では体感温度が2〜3度は下がる
という。菊屋のオリジナル蚊帳はほかにも、立ったままで出入りできるベッド用蚊帳、床部分もおおう六面
体のムカデ対策用蚊帳などがあるが、どれもお客の要望で誕生したもの。今年はヘンプ(大麻)の蚊帳を試
作し、アースデーのイベントに出品した。夢は大きく「スリーピングネット」の名前でアメリカ進出も計画
中とのことだ。