『漢方の臨床』70巻4号(2023)
蚊帳の枕カバー使用による 睡眠に対する効果
介護老人保健施設あつべつ 山本馨
緒言
認知症を患い不眠となった患者に日本産麻の蚊帳の枕カバーを使用してもらったところ、向精神薬睡眠薬を廃薬し、エチゾラム1錠のみの服用で、質の良い睡眠が得られたことを本誌に報告した。
人の眠りには、レム睡眠とノンレム睡眠があり、それは交互に現れ、一般には睡眠サイクルが起床するまでに何度か交互に繰り返される。また、サイクルが繰り返されるごとにノンレム睡眠の間隔が短く、レム睡眠の間隔が長くなるのが一般的な睡眠リズムと言われ、睡眠不足状態の人は、最初のノンレム睡眠が長くなる場合があると言われている。
今回、蚊帳の枕カバーによる満足できる睡眠を客観的に評価するために、Apple Watchとその睡眠アプリを使って、レム睡眠、ノンレム睡眠の回数、時間などを測定した。
方法
就寝時Apple Watchを腕に巻いてもらった。その際、Apple Watch搭載の睡眠アプリを使用し、蚊帳の枕カバー未使用時と使用時の睡眠状況を記録した。睡眠アプリで得られたデータをiPhoneに送信し、その睡眠履歴から得られるデータを評価した。
睡眠履歴には、全睡眠時間、睡眠時間、「覚醒」「レム」「コア」「深い」が表示される。「コア」「深い」はノンレム睡眠を示しており、「深い」は、特に睡眠度が強くて外気に反応しない状態である。
症例
【症例】 28歳、女性
【主訴】 不眠
【現病歴】 特記すべきことなし。
【既往歴】 なし。
【経過】 不眠に対する治療はしていなかった
X年12月6日~12月7日、蚊帳の枕カバーは使用せず、就寝した。
X年12月7日、蚊帳の枕カバーは使用せずApple Watchを装着して就寝し、睡眠アプリで睡眠状況を記録した。(図1)
X年12月14日~15日、蚊帳の枕カバーを使用し、就寝した。
X年12月15日、蚊帳の枕カバーを使用して、Apple Watchを装着して就寝し、睡眠アプリで睡眠状況を記録した(図2)。
結果
蚊帳の枕カバー未使用時は、全就寝時間に対して、覚醒の時間は10%、レム睡眠は11%、ノンレム睡眠ではコア睡眠が70%、深い睡眠が9%であった。蚊帳の枕カバー使用時は、全就寝時間に対して、覚醒の時間は4%、レム睡眠は31%、ノンレム睡眠ではコア睡眠が50%、深い睡眠が15%であった。蚊帳の枕カバー未使用時の覚醒回数が10回程度であったのに対して、使用時は4回で、蚊帳の枕カバー使用時は未使用時に比べ、覚醒回数が少なく、明らかに深いノンレム睡眠が占める割合が多かった。また、蚊帳の枕カバー使用時はレム睡眠とノンレム睡眠が規則的なサイクルで繰り返されるのに対して、未使用時ではそのサイクルが不規則でノンレム睡眠が長くなる傾向にあった。患者本人は、蚊帳の枕カバー使用後に「熟睡して枕がズレていた」との感想を述べていた。6名の患者に実施したが、残りの5名も似た結果であった。
私は今老健施設長である。100名の患者に蚊帳の枕カバーを使ってもらったが、その枕カバーを使用してから、夜間徘徊する人は一人もいない。他の施設にも配ったが同じ結果であった。
考察
蚊帳の原料は日本産麻(大麻)で、熱伝導率がよくて、頭の熱感を取る事で頭を冷やす効果があるため、よい睡眠の助けになる。近年ではヘンプの種子および茎から抽出された大麻草特有の成分であるCBDオイル(カンナビジオール)に睡眠改善の効果が期待されている。
また、ノンレム睡眠時は、成長ホルモンや種々の大切なホルモンの分泌が盛んになる時間帯である。
以上の事から、蚊帳の枕カバー使用による睡眠は質の良い睡眠を得ることに有用であると思われる。
付記 本論文の要旨は、第48回札幌医師会医学会(2023年2月19日開催)に発表した。
引用文献
- 山本馨:眠り姫は蚊帳の枕カバーを使っていたって本当?、漢方の臨床、68(3)、P322、2021
(医師:〒004‐0069北海道厚別区山本750番地6)