菊屋のヘンプ事業紹介
2022.9.1 在駐日タイ王国大使館
在日タイ王国大使館 2022年9月1日
菊屋 ヘンプ事業紹介
はじめまして、私は静岡県磐田市から来ました 菊屋の三島治と申します。
本日は ご来日したタイ王国産業省の重臣のみさまにお会いできることをたいへん光栄に思っています。
ヘンプ会議参加者リスト
本日は、こちらのメンバーでやってきました。
また、貴国において大麻草の一種であるヘンプの栽培・加工・販売を解禁とされたご英断に敬意を表します。
これまで、タブー視されていた大麻に光を当て、25000通りもある有効活用法を持つ大麻を用いて、人々を幸せに導こうとする、国を挙げての取り組みの姿勢に敬意を表します。
我々人類は、これまでの500年の間に 3回の産業革命を起こしてきました。
すなわち、18世紀の石炭・コークスを活用した最初の産業革命から、
19世紀の石油・ナフサを活用した第二回目の産業革命、
そして、20世紀の人類を破壊に招くかもしれない原子力・ウランを活用とした第三回目の産業革命。
そして、貴国、タイ王国は、第4回目のもっとも偉大な、産業革命を興そうとしているのです。それは、人と地球にやさしい産業革命です。
大麻という植物資源は、これまでの資源としての化石燃料とは異なり、持続可能で人々を幸福にする25000以上の有効活用法を持つ人と地球にやさしい資源です。
これからの時代、大麻をより有効に活用できる国が世界をリードしていく時代だと、私は思っています。
日本での大麻活用例
そのことについて、私は、我が国・日本においても同様だと思ってきました。
日本では1万年前から、米つくりよりも先に大麻づくりをしていました。
日本人の生活とヘンプはずっとホットな関係を保ってきました。様々な場面に大麻は活用されてきました。
映画「麻てらす」の紹介
「麻を知ることは日本を知ること」を副題にした映画「麻てらす」は、数々の国際映画賞を受賞しています。
本日、映画「麻てらす」の監督、吉岡俊朗氏にも参加しています。後で何なりと質問をしてください。
菊屋の紹介
私ども菊屋は静岡県磐田市にある、小さな町の寝具店です。
私たちは親子孫の3代にわたって、繊維に関係する仕事をしてきました。
祖父の代
私の祖父は、100年前の日本では、一番大きな企業であった「カネボウ」の社員として、日本と中国で、綿花や絹そして麻など紡績産業に従事していました。
父(写真・右端)も中国で生まれ、日本で育ちました。
祖父は80年前に、43歳で亡くなりました。父は当時12歳でした。
父の代
父も祖父と同じ繊維の道に進み、23歳で、静岡県磐田市で「三島屋ふとん店」を開業しました。結婚し、私(写真右端)と妹・弟が誕生しました。
私の代
父は45年前に48歳で亡くなりました。そして、私も23歳で、父が残した「菊屋」を受け継ぎました。
その後、結婚して、4人の子供に恵まれ、インターネットでの蚊帳の販売を通して、子供たちは成人しました。
菊屋の意味 CI ミッション
これが菊屋の意味する「菊」の花です。 桜と並んで日本を代表する花です。
毎年、秋に日本全国で、菊つくりコンテストが開かれます。いかにきれいな菊を咲かせるかを競い合います。
菊の花づくりの名人は土づくりの名人だからです。きれいな花を咲かせるには根が大切です。
根は眠りに値します。そして、良い眠りには、土づくりが大切です。
ぐっすり眠って、人生を輝かせよう。
父の興したこの「菊屋」の志を継いで、本日、ここタイランドの大使館に来ています。
今、私は、安眠のための土づくりには「大麻」が最適だと確信しています。
だから、大麻を活用し、眠りの商品作りに努力していくつもりです。
蚊帳について
1960年代まで、蚊帳は日本の夏の風物詩でした。当時、蚊帳は年間300万張りの生産がありました。
500年ほど昔から、高級な蚊帳の素材は大麻(ヘンプ)でしたが、第二次世界大戦で、敗戦国となり、占領政策の下での「大麻取締法」によって、蚊帳の素材は大麻(ヘンプ)から、苧麻(ラミー)や亜麻(リネン)になりました。また、コストダウンのために、綿やレーヨンとも混紡して、安価な蚊帳が流通していました。
蚊帳と菊屋のインターネット
一方、菊屋は、Windows95を機に、1996年に安眠をテーマに 「www.anmin.com」を開設しました。
あるとき、インターネットの向こうのお客様から「蚊帳が欲しい」というリクエストがありました。
私は「なぜ、今さら、蚊帳が必要なのか?」と驚きました。
そのインターネットの向こうのお客様は「どこの店へ行っても、蚊帳は売っていない」と嘆いていました。
確かに、年間300万張りも生産していた蚊帳は、市場から消えていました。
「日本蚊帳商工組合」という組織も、もはや社会的使命は終わったとして、解散していました。
しかし私は、お客様のリクエストにお応えなくてはなりません。
そこで、蚊帳の生産者を探り合当て、滋賀県から麻の蚊帳を仕入れて、そのお客様にお届けしました。ところで、どうしてそのお客さんが蚊帳を探していたのか?それを問い返すと
- 殺虫剤が嫌いだ 朝起きて頭が痛くなる
- エアコンが嫌いだ 朝起きると疲れている
- 自然の風が好きだ 窓を開けて自然の風を採り入れて眠りたい。
といった具合に、蚊帳を絶滅させた要因を嫌って、蚊帳を求めていることが分かったのです。
今さらながら、蚊帳は素晴らしいと驚きながら、再認識しました。
私たち菊屋のモットーとして提案しているのが「共生と共眠」です。
私たちの体内時計を、地球の回転に合わせた「サーカディアンリズム」として整えることが安眠の秘訣だと、私たち菊屋は提唱してきました。
蚊などの害虫と思われる虫たちに対しても、いたずらに命を奪うのではなく、殺生をするのではなく、共生できる道を探すことも大切ではないでしょうか。これはタイランドでの仏教の教えによるものと同じでしょう。
そのような経緯で、菊屋は 1997年からインターネットでの蚊帳の販売をスタートさせました。
菊屋の開発した新しい蚊帳
<昔ながらの蚊帳から現代の蚊帳へ>
畳が床になっている和室用の大きな蚊帳から、ベッド用の蚊帳につくり変えました。
また、お客様からのご要望で、底生地が付いたムカデ対策の蚊帳もつくるようになりました。
新しい蚊帳生地の開発
さらに、洗濯ができるカラミ織の蚊帳をつくりました。
カラミ織はタテ糸の二本をねじりながら、ヨコ糸を固定させていくという手法です。
蚊帳の網目を糊で固めずに固定しているので、洗濯することができます。
また、このカラミ織では、生地が立体構造になり丈夫さだけでなく航空力学の視点からも、風通しの良い蚊帳になりました。
加えて、素材を麻にすることによって、蚊帳の中の湿度は低下し、蚊帳の中の体感温度が下がるのです。
このことについて日本の外務省が、菊屋の蚊帳を全世界に伝えるビデオを作成してくれました。 ヘンプ以前の蚊帳についてです。 3分ほどの動画です。ご覧ください。
世界に向けて蚊帳の発信
さらに菊屋は、世界に向けて、様々な蚊帳を発信しました。
パリで行われる国際インテリア博覧会に、日本代表として正四面体の蚊帳・カクーンを出品しました。
世界の秘宝と言われるカルティエの展示会では、宝石を包み込む神秘的な蚊帳を制作しました。
これらは、ミシンの魔術師、藤原秀記氏の技術力です。
そして、苦しかった菊屋の経営状況は改善されました。
マラリアからアフリカを守ろう
私は、この蚊帳によって、助けてもらいましたので、今度は蚊帳を使って、ご恩返しをしたくなりました。
アフリカを中心とした熱帯地方では毎年500万人の子供たちが、マラリアで命を落としています。
そこで「マラリアからアフリカの子供たちを助けよう」と立ち上げり、蚊帳の売り上げの一部をアフリカの子供たちへ蚊帳のプレゼントを始めました。
このアフリカへプレゼントする蚊帳は タイランドでつくられた蚊帳。サイアムタッチの蚊帳でした。
この蚊帳をバンコクからアフリカ各地へ贈ったのです。
菊屋とタイランドとの不思議なご縁
2002年、ブータン王国との親善大使をつとめている弓削康史氏に、マルセル・ダブルマン氏を紹介されました。そのオランダ人のダブルマン氏は、もと国連の職員で、アフリカのマラリア情勢を見かねて、 自らバンコクに蚊帳のメーカー「サイアムダッチ」社を立ち上げた方です。
私ども菊屋はダブルマン氏のタイランドでつくった蚊帳をバンコクからアフリカ各地へ贈りました。
また2012年、日本政府からの要請、PKO=国際援助事業で南スーダンに行ったときにも自衛隊の隊員用と現地へのプレゼント用に2500張りの蚊帳をダブルマン氏に頼んで、調達しました。
日本には「我が身が助かりたかったら、人に尽くせ」ということわざがありますが、私は蚊帳でたくさん助けてもらってきました。
ヘンプの蚊帳 誕生の軌跡
麻・ヘンプの蚊帳は、2004年のアースデーと、翌2005年の「愛・地球博」にむけて会場に展示する大麻(ヘンプ)の蚊帳の制作依頼を受けたことで取り組みました。
蚊帳は、蚊帳という存在だけで、地球環境にいい生活の道具ですが、環境問題に配慮された、自然環境を守る代表的な素材としての大麻・ヘンプでの蚊帳づくりの依頼があったのです。
私は、タテ糸をラミーからヘンプに代えるだけで簡単にできるだろうと安請け合いをしてしまいましたが、
タテ糸のヘンプ糸は、ラミー、リネンと比べて柔らかく、織り上げていく過程ですぐに切れてしまいました。
タテ糸、ヨコ糸ともにヘンプ糸(ヘンプ100%)を用いた生地を織り上げるのはとても難しいのです。
事実、日本で流通されているヘンプ生地と言われるものは、実はほとんどタテ糸にはリネン糸を用いたものです。
ましてや、通常の平織でなく、カラミ織で織り上げるのは非常に困難で、熟練を要した技術力が必要です。
アースデーと愛・地球博に、出展する分だけの蚊帳生地は、大部分を犠牲にして、なんとか織り上げたのですが、その後、ヘンプの蚊帳生地を安定的な供給できるようになったのは、2017年でした。10年以上の年月を要しました。
その試行錯誤の挑戦に、さまざまな産地からの糸を用いてきましたが、現在のところフランス産のヘンプ繊維で、それをイタリアで紡績した糸が最も適しているのが分かりました。
このようにして私たち菊屋は、究極の安眠空間といえる持続可能な自然環境にも則した古くて新しいカラミ織での「ヘンプの蚊帳」を確立させることができました。
日本では、昔からの「カミナリ鳴ったら蚊帳の中に逃げろ」の言い伝えは、ラミーやリネンの蚊帳ではなく、ヘンプの蚊帳だったからであり、ヘンプならではの不思議な魔よけ、カミナリ避けの電磁波遮断性があったのかもしれない。
蚊帳の5段階 5段階の蚊帳
菊屋は古くて新しいヘンプの蚊帳を復活させ 蚊帳を5段階に進化させてきました。
1.命を守る蚊帳
2.安心安全の蚊帳
3.安眠の蚊帳
4.癒しの蚊帳
5.祈りの蚊帳
ヘンプの蚊帳は、第四、第五段階の 安眠はもちろん、心を癒し、自他ともの幸せを祈る蚊帳と言えるでしょう。
こうして、人々に、安眠と、幸福を届ける 菊屋のヘンプ商品は 蚊帳から始まりました。
ヘンプで進む菊屋のコンセプト
菊屋は昨年の創業70周年を節目に「麻・ヘンプ」を安眠素材とした、新しいD2Cマーケティングを展開することになったのです。
1万年前の縄文の時代から日本人の生活になじみの深いおヘンプは、三つの「S」に見合った自然素材です。
「3つのS」とは、Soil(土) Soul(魂) Society(社会)です。
ヘンプは「自然環境」にもいいです。無農薬で成長も早く、2万5千件を超すほどのいろいろな用途があり、「社会的な活躍」の場面もいっぱいあります。また、おお麻・ヘンプは、神道においても「心のよりどころ」でもあります。
私たち菊屋はこのヘンプを用いて、3つのSを重要視して、事業展開をしていきます。
ヘンプの糸から始めるモノづくり
現在菊屋はフランス産と中国産のヘンプの糸を輸入しています。
フランス産の糸は織り易く、中国産の糸は織るのが難しいです。
様々なスタイルに織り上げた布を、整理加工、湯通し、藍染加工 を施します。
次に、様々な用途に合わせてヘンプの特性を生かした商品に変えていきます。
ヘンプ生地の縫製に関しては、蚊帳づくりも含めて。藤原秀記が日本で一番の、縫製職人だと言えるでしょう。
よろしければ、何かの機会に、技術提携もできます。
ヘンプの寝具
ヘンプは多孔性繊維であるため、通気性と熱伝導性が高く、「夏は涼しく、冬暖かい」をかなえる、とても不思議な繊維であり、吸湿・発散性に優れているので、適度な湿度を保ちながらも、蒸れることがありません。
蚊帳はもちろん、枕やケット、パット、シーツなど寝具類には最適な素材です。
カーテン・タペストリー
ヘンプでカラミ織の蚊帳で実証済みの空間を快適にする効果は、カーテン、タペストリーなどとしても活用されます。
麻・ヘンプの服
ヘンプはラミーやリネンよりも柔らかく肌に馴染む素材で肌着にも適しています。
さらに、薬品加工を施すことなく繊維そのものの微細孔に酵素がたくさん含まれ嫌気性細菌を生息させない抗菌・防臭作用を有しています。 デリケートな肌にもなじむ素材です。
菊屋のヘンプブランド ロアース
ヘンプの素材を活かし、八木京子にデザインを依頼 ロハスとアースの菊屋ブランド:ロアース(loharth)を立ち上げました。
ヘンプの知られざる機能性 紫外線カット効果
ヘンプの紫外線カット率は95%以上あります。
「シルク:84%」「コットン:68%」「麻(リネン):56%」で天然素材ではもっとも日焼け止め効果の優位性をもっています。
このヘンプの優位性を活かした、ヘンプの帽子、日傘、マスクなどを商品化しました。
ヘンプならではの自然の抗菌・消臭作用も加わり、ヘンプマスクの機能性はさらにアップしました。
日本とヘンプ
大麻の持つ不思議な力は長い歴史の中で、日本人に神秘性、神聖性を喚起するものとして崇められてきました。
日本の象徴である天皇家の神社が「伊勢神宮」です。天皇家の祖先の始まりである「天照大神」を祭っています。
そして、天照大神の化身として「神宮大麻」が、毎年、お正月を迎えるころになると、日本全国の神社を通して各家庭に、配られて、国民はそれを1枚1,000円で購入しています。
かつては、そのお札と一緒に、ヘンプが入っていた記憶がありますが、いまは、お札だけです。
一方、
貴国、タイでは大麻を麻薬指定から外し、一般家庭での栽培を促すために100万株を国民に配布し、ヘンプの有効活用のための下地を作ったと聞きました。
大麻を恐れず、大麻について話すことも恐れることなく、大麻について関心を高め、大麻のより有効な、人々を幸せにする、石炭や、石油、原子力よりも地球にやさしく、持続可能な剰余価値の拡大再生産について、さらに研究・実践が必要になりましょう。
ヘンプ国際大会
今年の11月30日から12月3日まで、貴国・バンコクで、世界ヘンプフェアが開催されますね。
日本からは、日本麻協会の理事である松浦良樹氏が参加します。
日本の麻文化を、そして菊屋の蚊帳をはじめ、ヘンプ商品を展示する日本ブースの責任者として参加です。
このことについては、松浦氏からのお話を聞いてください。
先ずは枕から そして敷布団と掛布団 さらに快適な睡眠空間をつくる蚊帳、さらに、安眠できる部屋、家、地域、国、最終的には地球全体が平和で、人々が安心して安眠できる素材がヘンプだと確信しています。
そんなヘンプの国際会議が、貴国バンコクで開かれるのは実に素晴らしいですね。
ヘンプの糸
<タイランドのヘンプ糸は織りやすいか?>
I現在、菊屋では高級感のあるフランス・ノルマンディ産の無漂白のヘンプ糸を用いた蚊帳づくりをしてきましたが、コロナの影響で、ヘンプ糸の入手が困難になりました。
そこで、やむなく中国産のブラックヘンプ糸を用いて、凌いできました。しかし品質が良くなく、織るのには大変でした。
今回の皆様方とのご謁見を機に、上質のタイランド産のヘンプの活用ができれば大変うれしく思っています。
さらに日本全国に流通させることができれば至高の喜びです。
貴国と日本は、仏教を通しても古くからの友好国であり、私どもの「アフリカをマラリアから蚊帳で救う運動」にも貴国の蚊帳が大きな働きをしてくれました。
祖父の代から大切に取り扱ってきた「糸」を大切な経営資源として、弊社創業100周年に向けヘンプの糸を確保し、こちら静岡県・遠州地方特有の「カラミ織」と「平織り」の生地を素材として、D2C商品を開発していく予定です。
この不思議な「ヘンプの赤い糸」のご縁を大切に、今後とも末永くよろしくお願いします。
ヘンプで世界が平和で人々が安眠できますように
私の祖父の時代には
「糸が軍艦に変わる」と、殖産興業・富国強兵の国策で、日本は戦争への道を進みました。
私の息子や娘の時代には
「糸が平和・幸福・安眠に変わる」 それを実現させるためにも、貴国・タイランドのヘンプ産業の振興・発展を心からお祈りいたします。
Thank you very much.
May the world be peaceful and people happy and sleep well through the use of hemp!
2022年9月3日 中日新聞